奥野田葡萄酒醸造株式会社

達人名:中村雅量 Masakazu Nakamura 
    奥野田葡萄酒醸造株式会社 代表取締役
ジャンル:農業 Agriculture
山梨県甲州市 Kosyu-City Yamanashi

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ICTを活用し、良質なブドウ作りを目指す。

甲府盆地東部の日当たりと水はけのよい斜面。その土壌をワイン用ブドウの栽培に最適化し、4つの自社農園2ヘクタールを運営する奥野田葡萄酒醸造株式会社。日本では栽培が難しいと言われるカベルネ・ソーヴィニヨンのほか、メルロ、シャルドネ、デラウェアの4品種を栽培している。2011年からはセンサーや無線ネットワークを活用し、人手に頼らず効率良くデータを収集する高精度な生育管理システムを構築。
(2015年6月25日 取材・撮影/RPI)

奥野田葡萄酒醸造株式会社
http://okunota.com/

インタビュー

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小さなワイナリーに訪れた大企業との幸せな出会い

_20C7893.JPG2015年春、醸造場から徒歩2分の場所に新しく「奥野田ガーデンテラス」が誕生。圃場に集う人々とワイングラスを傾けながら作業の疲れを癒す和みの空間だ。ワインにまつわるさまざまなイベントも開催予定。 微生物の性質を活かして、高品質なワイン作りを目指す山梨県甲州市のワイナリーのぶどう畑に「富士通 GP2020ワインファーム(※1)」と名付けられた一画がある。そこでは、富士通株式会社の社員やその家族がボランティアでブドウの育成に汗を流す。「『やまなし企業の農園づくり(※2)』制度を活用して、富士通さんの社員に社会貢献していただく事業を山梨県の農政部が計画し、私たちとつないでくれたのが始まりです」と、奥野田葡萄酒醸造株式会社(以下、奥野田ワイナリー)・代表取締役の中村雅量さんは当時を振り返る。奥野田ワイナリーと富士通は協定を結び、農地の有効利用を図りながら、地域の活性化や地域間交流を図る活動を2010年からスタートさせた。

「こうした活動の中で、『ワインの品質をもっと上げるために富士通に何ができますか』と聞いてくださったんです」と語るのは、妻の亜貴子さん。2011年3月に雅量さんは、「ブドウ畑の気温を自動で計測して、病気の予防や収穫時期の判断に活用できませんか」と相談したという。

※1:富士通GP2020ワインファーム
   富士通グループが、環境・社会貢献活動の一環として、地域貢献や生物多様性保全を行いつつ、社
   員の意識啓発を図るため、奥野田ワイナリーと協働して運営するブドウ畑。
※2:やまなし企業の農園づくり制度
   山梨県内の農業・農村の活性化に向けて、農村地域と企業が協働活動を進めることを県が支援して
   いく制度。

最先端テクノロジーにより、
10分間隔で圃場を測定

システム.png奥野田ワイナリー式圃場管理システム。 富士通は、ブドウ畑の温度情報を計測するシステムを提案した。得意分野であるICT(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー:情報通信技術)を駆使して温度センサーと簡易カメラが一体となったセンサーボックスを開発し、ブドウ畑に2011年6月より設置。24時間、10分間隔で収集した測定データを無線ネットワークを用いて圃場管理事務所のパソコンに自動送信して集計することで、ブドウ畑の365日の正確な温度情報を得ることができるようになった。太陽光で発電してバッテリーに蓄え、自動でデータを測定する。通信費用もかからず、低コストだったという。

センサーが危険を察知し、適切な防除を実現

_20C7964.JPG甲府盆地は雨が多く肥沃な大地。ヨーロッパで良質なブドウが育つ条件とされる、石灰土壌で雨が少なく痩せた大地と正反対だが、土壌微生物の性質を利用することで、ブドウ栽培に適した土壌に。 システムを導入してすぐ、6月30日に大きな転機が訪れた。センサーが短時間の不安定な温度変化をとらえ、雅量さんがその観測データから圃場の危険を読み取り、適切な防除を実施することができたのだ。その結果、奥野田ワイナリーでは、ブドウの成長に悪影響を与える病原菌の発生を抑えることができた一方で、隣接するエリアのブドウ畑はその日を境に病原菌に汚染されたという。

 この出来事をきっかけに富士通は、人間の勘や経験に頼るのではなく、蓄積されたデータを基にして自動的に異常を察知し、「この圃場が危ない」とメールで知らせるシステムを開発した。また、情報をクラウド上に蓄積することにより、インターネットに接続すれば、地球上のどこにいても圃場の状況を把握して、スタッフに適切な指示を行うことが可能になった。

データの解析結果から気温の予知が可能な段階に

_20C7958.jpg日本では栽培が難しいと言われるカベルネ・ソーヴィニヨン。熟す前の実は美しい緑色をしている。 その後2012年、2013年は気象条件がよく、恵まれたヴィンテージとなったが、2014年はデリケートな天候であった。しかしそのような環境の中でも、温度変化を読みとり適切な防除を行うことで、良質なブドウを生産できたのだ。まさにICT技術の成果を実証することができたといえる。さらに、4年にわたって蓄積したデータについて富士通の数値解析の専門家が統計解析を行ったところ、特定の地点の朝の気温の上昇速度と、数キロ離れた圃場の午後の最高気温との間に強い相関関係があることを発見した。この相関関係の発見によって、圃場の午後の気温を事前に予測することが可能になり、ブドウの生育を阻害する危険な温度条件になる前に、「今日の午後、危険な状態になるかもしれません」とメールで知らせることができるようになった。こうして、スタッフにも防除の準備をする余裕が生まれた。

 ワイン先進国のフランスは30年くらい前から気象データを収集しているが、解析して利用するまでに至っていないそうだ。「データに基づいて予測精度を高めていけば、ワイン先進国に勝てるんじゃないかと思います」と雅量さんは語る。

安く、早く、簡単に、
農家全体で品質を底上げ

_20C7962.JPG 奥様の亜貴子さんは勝沼生まれ。販売から広報まで何でもこなしてワイナリーを支える、雅量さんの頼もしいパートナー。 一連のシステムの仕組は、基本設計が優れており、センサーはシンプルでエネルギーコストが低く、小さなソーラーパネルで必要な電力をまかなえる。また、データはエクセル形式で送信され、データ量も小さく、管理もスムーズだ。さらに、人件費も削減でき、圃場にライトを設置するくらいの感覚で始められる。

 「ICTを活用すれば、一般的な農家が病気を防ぐために暦通りに行う農薬散布の回数やコスト、労力を半減することも可能になる。」と雅量さんは考えている。年間の農薬代等の経費を削減できれば、システム導入費を遠からず回収できる。



生物多様性に配慮する取組姿勢が一致

_20C7973.JPG1~2種類のテイスティングは無料。プレミアムコースではお勧めの3~4種類を500円で味わえる(所要時間20分)。 奥野田ワイナリーと富士通は、生物多様性の保全に関しても、思いを共有している。土壌中の化学薬品を減らし、生物多様性が蘇れば、土壌の性質が良くなり、日本の農業の再生につながるという考えだ。

 中村さんのブドウ栽培の基本は「無肥料と不耕起」。耕耘機を使わず雑草を刈り取ることで根を残し、土中の微生物が生息しやすい環境を整えることである。農薬を使用せずに栽培し、皮に野生酵母が付着したブドウを非常にゆっくりと低温で発酵させると、出来上がったワインに表情や奥行き、余韻が生まれると雅量さんは考えている。このように農薬を減らし、環境負荷を低減しながらワインの品質を上げる試みが評価され、富士通社内で環境貢献賞、社長賞を受賞した。

さらなる広がりを見せるICTの可能性

268A9871.JPG携帯端末でインターネットに接続すれば、地球上のどこにいても圃場の状況を把握できる。 ICTは、農業者以外からも注目を集めている。例えば、山梨県の農政部では「ICTを活用し、就農支援を促進できないか」と知恵を絞っているという。新規就農者でも手軽にICTを活用することで、勘や経験に頼らない農業が可能になるかもしれない。ほかにも、「各所に設置したセンサーボックスのデータを気象情報として共有財産にできないか」と、内閣官房から雅量さんにコンタクトがあったという。気象観測ポイントが増やせれば、データの信頼性をより高められる。このように、ICTの活用の幅は今後もますます広がっていきそうだ。奥野田ワイナリーにおいても、データの蓄積や分析の継続により、さらなる応用が期待できる。

 「高品質のワイン作りはすごく大変だけど、こんなにも喜びを与えてくれる仕事はないですね」と亜貴子さんは言う。「スタッフ4人で、すべてに目を配りながらブドウの栽培とワイン醸造をするのが実に楽しい」と雅量さん。「10年後には、仕事の精度をさらに高めていたいですね」と語る中村夫妻の笑顔は輝いていた。

サポーター

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〜ここで働く仲間、外部でサポートしてくれる仲間がいて成り立っている〜

奥野田葡萄酒醸造株式会社をサポート

富士通株式会社 環境本部 
グリーンビジネスイノベーション統括部 グリーンソリューション推進部
清宮 悠(32)

圃場の「見える化」が実現する次世代型農業

kiyomiya01.jpg富士通株式会社 環境本部 グリーンビジネスイノベーション統括部 グリーンソリューション推進部 清宮 悠さん(32) ワイン作りに使用するブドウの収穫時期の目安は、開花以降の1日の最高気温と最低気温の差の積算温度が約1300度になったときだそうです。また、ブドウの色素量についても、夏以降、気温が22℃を下回った時間の累計から知ることができるそうです。しかし、圃場の温度を正確に知るのは難しく、「ICTで温度監視ができませんか?」と中村社長より相談を受け、弊社のシステムを導入していただきました。奥野田ワイナリーの4つの圃場の気温などのデータを可視化することで、適切な収穫時期などを見極められ、病気の予防にも有効です。この技術は今後、農業者みなさまのお役に立つと考えています。

 毎年200名ほどの社員と家族が中村さんのワイン作りをお手伝いし、生物多様性の重要性を実感しています。大阪から毎月参加する方もいるほど人気の研修です。

達人からのメッセージ

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農家にとって一番怖いのはカビの系統の病気で、果樹も野菜もお米も同じです。ICTの活用で畑に近づく危険を事前に察知できるなら、世界中の誰もが知りたいでしょう。もともと僕たちは化学農薬の使用量を減らしていきたいと考えていました。ICTを活用したことによりリスク回避の確実性が高まり、品質を上げながら農薬の使用量は減っています。田舎暮らしやスローライフに憧れた若者が新規参入しようとした時、低農薬や無農薬を実現するためには相当な努力が必要です。まずはプロの農家が品質をあげるためにICTを使い、その蓄積データを詳細に分析していけば、いずれ就農支援に役立てることができます。ICTが、勘や経験に頼れない農家の2代目や新規就農者を支える時代がやってきます。

奥野田葡萄酒醸造株式会社

001 奥野田ビアンコ
糖度の高い良質な葡萄から大事に作られるワイン。ラベルはいずれも妻の亜貴子さんの手によるもの。甲州とシャルドネをブレンドし、グレープフルーツ、ナシや完熟りんごを思わせる香りとともに、さわやかなハーブのニュアンスを感じさせる白ワイン。

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002 奥野田ロッソ
メルロ、カベルネ・フランをブレンドし、プラムや生イチジク、ローズヒップを思わせる香りに、スパイシーさ、スモーキーさ、ハーブのニュアンスも感じさせる赤ワイン。

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003 ラ・フロレット ローズ・ロゼ
希少な黒ぶどう、ミルズ種をごく浅く発酵させて、爽やかな甘みと酸味、バラの花やライチ、白桃を思わせる芳香のデザートロゼワイン。

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004 ラ・フロレット ハナミズキ・ブラン
マセラシオンにより甲州種が持つ果実本来の味わいを最大限に引き出した、豊かな香り、奥行きある味わいのワイン。

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005 ラ・フロレット スミレ・ルージュ
メルロ種を用い、スミレやカシスを思わせる華やいだ果実香の中にブラックペッパーやペッパーミントなどのハーブのニュアンス、香ばしい樽香が感じられる赤ワイン。

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