越廼漁業協同組合 
ぬかちゃんグループ

達人名:上野志津子 Ueno Shizuko
越廼(こしの)漁業協同組合 ぬかちゃんグループ 代表
ジャンル:漁業 Fishery
地域:福井県福井市 Fukui-city Fukui

41A.pngスクリーンショット(2012-09-26 17.02.46).png

「どんな魚も糠漬けにする!」
元・漁師の女性が仕掛ける町おこしのための逸品とは


1938年4月11日、漁師の家に生まれる。ぬかちゃんグループ代表、越廼漁業協同組合女性部部長代表を務める。まだ女性の漁師が珍しかった時代、周囲の反対をよそに漁を始め、イカ釣り漁船で全国を駆け巡るように。北海道から九州までイカを追って季節ごとに移動しながら各地方の食を堪能するうち、海産物の味が産地によって大きく異なることを知る。中でも、故郷である越廼は大変優れた漁場であることを改めて実感。2008年、共に働いていた息子へ漁船を譲り、越廼に残る食の伝承に力を入れるべく、活動の場を海から陸へと移した。若い時分から大好きだった料理の腕を活かし、現在はサバをはじめとする魚のぬか漬け、海藻あかもくなどを用いた新商品開発などに携わる日々を送っている。
(2013年1月11日 取材・撮影/RPI)


インタビュー

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全国の漁場で魚を食べ比べて
越廼の魅力を再発見

40B1.png4年前まで上野さんが舵を操り、スルメイカの1本釣りを行っていた漁船は19tサイズ。今は上野さんの息子が引き継ぎ、インドネシアからの研修生2人と共に漁を続けている。 女性が漁師となって海へ出ることが疎んじられたその昔、上野志津子さんは意志を貫き通して漁師となった。「『女やさけぇ、そんなのせんでええ』。そう言われると、なお火がついた。」と上野さん。誰に教わることもなく見よう見まねで技術を会得。本格的にスルメイカを追うようになったのは32歳からだ。子供が小学校に入り手がかからなくなったのをきっかけに、北は稚内から南は対馬までをイカ釣り漁船で移動する日々。大の男でも音を上げるハードな日々を40年近く過ごしてきた。そして各地で獲れた魚を食するうち、同じ種類でも産地により味が異なること、そして地元・越廼の魚は高品質であることを確認できたという。

 4年前に漁師を引退した彼女の熱意と行動力は、今や地元である越廼の伝統食へと向けられている。もともと料理をするのが大好きで、自分が納得するまで探求や創意工夫を凝らすタイプ。ちょっとした塩加減で魚をよりおいしく保存する裏技も数々会得している。越廼地域に賑わいを取り戻そうと、魚介の新製品加工を渇望していた越廼漁業協同組合にとっては、うってつけの人材であった。

豊かな漁場がありながら、
マイナーな越廼

41B2.png越廼漁港から眺めた日本海。潮の具合によって差はあるものの、透明度の高さは昔とほぼ変わりない。足元の岩場に張り付く海苔は、そのまま掻きとって椀に盛り、湯を注ぐだけで立派な1汁に。 多くの漁港が抱える過疎化の悩みは、越廼でも同様に存在する。近隣に定住する若年層は、そのほとんどが市街地へ働きに出る。今や越廼エリアの人口は1500人、このままでは町が消える……と、越廼漁業協同組合が漁業の存続や町おこしの一端を担うべく、6次産業化へ向けてアクションを起こしたのは2011年のことだった。糠漬けを根本に据えながら掲げたテーマは、商業ベースに乗せられなかった魚介や藻類の有効利用だ。

 「越廼は、越前のカニに負けてしまって。」越廼という地を語ろうとして、知名度に悩む上野さんはそう言いながら苦笑した。隣町の越前は全国的に有名なカニの名産地であり、観光客も多く訪れるが、越廼にはとどまらない。しかし、越廼にもとっておきの特産物はある。上野さんも長年扱ってきたイカだ。越廼でのイカ釣りの歴史はどこよりも長く、魚市場で越廼のイカは確固たるブランドとして確立されてきた。緑深き山々を抜ける大味川が森の養分を海へと運び、沖では暖流と寒流がぶつかり合い、少し船を出せば海底には水深13mほどの瀬が大陸棚のように連なる。イカのほかサバ、シイラ、アマダイが群れ泳ぎ、漁師のみならず釣り人やダイバーも押し寄せるほど恵まれた漁場なのだ。ただ漁師にとって、規格外のサイズや小ロットの魚などは、市場に出しても値がつかないもの。とはいえ、せっかく獲った魚を廃棄するのはあまりに忍びない。そんな悩みも抱えていた。


6次産業化への流れで
再評価される糠漬けの意義

41B3.png掃除の行き届いた部屋で醗酵が促される様々な魚の糠漬け。食べるとき、糠は洗い流さず軽くはらうだけにとどめるのが越廼流だ。糠にも魚の旨味が含まれているので、払い落とした糠は軽く炒って白飯にのせ、お茶をかければ美味なお茶漬けになるとか。 越廼はイカ釣り発祥の地だけではなく、魚の糠漬け発祥の地としても伝えられている。糠漬けは地方によっては「へしこ」と呼ばれる、サバなどの魚を糠床に付けて発酵させたものだ。他の地方では醤油や酒だけでなく、防腐剤や早期発酵を促す薬品を添加することもあるとか。しかし越廼の糠漬けは、糠床の材料が糠、塩、唐辛子の3種のみ。糠には白く小さな米粒が混じり、後に残らない軽やかな甘みをまとわせる。この糠床へ魚を1年以上じっくりと寝かせていくのが越廼の伝統、上野さんの流儀でもある。サバの糠漬けの場合、身の色が灰色に変わる他の地方の糠漬けと比べ、いつまでも桃色に輝くのが越廼産の特長だ。イカの糠漬けは、2年も経つ頃には飴色に染まり見た目にも美しくなる。2年も保存すればさぞ塩辛いだろうと想像する人は少なくないが、1年を過ぎた頃から、魚の身に染み入った塩がまた糠床へ出る「塩戻り」が起こり、逆に柔らかな滋味となる。

 越廼の糠漬けの素材は、地元で揚がった近海物に限定。2~3時間前までは海の中で泳いでいた魚が、港に揚がるとすぐに捌かれ処理される。冷凍で長期保存された輸入物の魚を解凍し糠漬けにしたものと比べれば、圧倒的に鮮度が違う。越廼漁業協同組合が6次産業化に取り組もうと案を練った際、加工品の第一候補に挙がったのがこの糠漬けだったのも当然だ。糠漬け経験が豊富な上野さんたちは、越廼漁業協同組合の女性有志で「ぬかちゃんグループ」と名乗り、2009年から糠漬けの加工生産に取り組み始めた。


捨てずに漬けて商品化していく
越廼の知恵と技

40B4.png商品にも使われている海藻のあかもくを手にする上野さん(左)、ぬかちゃんグループを支える監事の北﨑和代さん(中)、営業から商品配達までマルチにこなす越廼漁業協同組合の庭本仁実さん(右)。 「『ほかす(捨てる)』って言うもんやで、『ほんじゃ私に頂戴』って」と、上野さんは幼い頃から、売れずに廃棄処分を待つだけだった魚を漁師から貰いうけて、せっせと糠漬けを試してきた。それぞれの魚に合ったレシピがあり、たとえば薄い皮の魚は塩分量を少し違えるだけで腹部分が溶けてしまい、商品にならなくなってしまう。ゆえに、魚の種類ごとに糠床は替える。そんな上野さんの鮮度を見極める眼と料理の腕前が、6次産業化への取り組みで一層輝く。福井では馴染みのない魚であったシイラの糠漬けにも挑戦しており、すでに1年物が完成し出番を待っている。

 上野さんたちの取組が、六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画の認定を受けたのは平成24年。関係するスタッフは随時、6次産業化プランナーとも意見を交わし、プランナーの発案により、新たな商品も産まれつつある。たとえば、糠漬けの塩と醗酵のニュアンスが、イタリア料理などに使われるアンチョビの風味と似ていることから創作された、糠漬けイカのオイル漬け。上野さんたちによれば、組合員だけでは思いつけなかった斬新なアイデアをもたらしてくれるありがたい存在、とか。「ぬかちゃんグループ」を結成して以来、上野さんたちは越廼ならではの食品を作って売り出そうと努力を重ねてきた。新たな産業を根付かせる試みには、多くの地元民からも期待が寄せられている。平成24年度、売上実績は目標200万円のところ350万円を計上。出だしは上々だ。

サポーター

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ここで働く仲間、外部でサポートしてくれる仲間がいて成り立っている

41SP.png越廼漁業協同組合の代表理事組合長・北﨑寿男さん。
休漁に伴う経済面での影響、海外からの漂着物処理など、越廼の組合員全員が対峙する諸問題のために奮闘してきた。ぬかちゃんグループでは指導役の上野さんから多くを学び奮闘する妻の和代さんを、温かく見守っている。






達人からのメッセージ

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昔は昔、今は今。考え方が古いと思ったら、切り替えていかなければいけない。今の越廼は、外から参入する企業がなく、子供の数も減っており、このままでは地元で後継者を育てていけるのか難しい。6次産業化を通して、漁業従事者や糠漬けの後継者をどのように増やし、食文化をどう広げていくべきかを模索していきたい。

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越廼漁業協同組合 ぬかちゃんグループの製品

001 こしのぬかちゃん さば
糠漬けの商品は全て、発注が入ってから初めて糠床より引き上げひとつひとつ包装していく。地元で「千日サバ」と呼ばれ珍重されてきたサバは、やや小ぶりなサイズが糠漬けに最適。程よく脂ののったサバの糠漬けをスライスし薄切りの大根に挟めば、ご飯がすすみ、最高のアテにもなる。

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002 こしのぬかちゃん あじ
サバの糠漬けは全国で作られているが、アジは越廼だけ。というのも、アジをそのままの姿で糠漬けにするノウハウがまだ全国に知れ渡っていないためだ。アジの柔らかく薄い皮が溶けてしまわないよう絶妙に配合された糠床は、上野さんのオリジナル。実は上野さん自身、サバ以上にこのアジの糠漬けが大好物なのだとか。

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003 こしの甘塩いか
越廼産のイカを用いた商品は、長期熟成させた糠漬けだけでなく、あっさりとした味わいの一夜干しタイプも作られている。「こしの甘塩いか」は、冷凍庫から出してそのままフライパンやホットプレートで焼くだけで、ふっくらジューシーな1品に。解凍時間がかからず、味付けの手間もいらないため、都会の多忙な人々にも好評だとか。

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004 金のあじ 活煮干し
10月以降に獲れる小さいアジは、脂分が少ないことから最高級の煮干に。一番出汁、二番出汁をとった後も捨てず、そのまま水分を切って素揚げにすればカルシウムたっぷりのおやつに。ポリポリと噛めば噛むほど味がじんわり膨らんでくる。

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005 海藻あかもく こしのぎばちゃん
固く長い茎を持ち、漁船のスクリューに絡まりやすいため「邪魔もく」と呼ばれ疎んじられていた海藻「あかもく」。しかし今や、食物繊維やポリフェノールが豊富な機能性食品として、医学界より注目を集める存在に。そのあかもくを、やわらかい芽の先の部分だけ丁寧につまみとり、さっと茹でて鮮やかな緑色に仕上げたのがこの商品。とろみがあり、そのまま蕎麦に添えたり、納豆に入れたり料理の幅は広い。

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