ハートランド株式会社

達人名:黒田英彦 Hidehiko Kuroda
ハートランド株式会社 代表取締役社長 
ジャンル:農業 Agriculture
地域:大阪府泉南市 Sennan-city Osaka

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文房具のコクヨがサラダほうれん草作りに着手
障がい者雇用の子会社が挑む安定経営への道

社長の黒田さんは、1952年大阪生まれ。同志社大学法学部法律学科を卒業後、1976年にコクヨ株式会社入社。コクヨを代表する製品「キャンパスノート」シリーズのリニューアルをはじめ、文房具の商品企画開発・マーケティング・商品戦略の第一線をひた走ってきた。そんな文房具一筋だった人生が大きく変わったのは、身体障がい者が働くコクヨKハート株式会社の代表取締役社長に任ぜられた2009年。障がい者一人ひとりの個性を活かした職のあり方に心を砕く日々を送り、さらに2011年からはハートランド株式会社代表取締役を兼任。コクヨの特例子会社として印刷業サポートを行うコクヨKハートと異なり、サラダほうれん草の水耕栽培を主軸としたハートランドの事業は、コクヨ・グループとしても初の試みだ。2012年より6次産業化の一環であるサラダほうれん草の加工食品開発に着手し、新たな局面を迎えている。
(2013年1月29日 取材・撮影/RPI)

ハートランド株式会社

インタビュー

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コクヨと障がい者との長い歴史、
そして農への挑戦

45B1.pngハートランドのビニールハウス内。温度や湿度は24時間管理され、サラダほうれん草は葉の色艶も抜群だ。ほぼ無農薬に近いので、生でいただくサラダにはぴったり。 文房具や家具の製造販売を手がけるコクヨ。そのグループ社内では、障がい者を“障害者”とせず“障碍者”と表記してきた。「障がい」を持つことは困難ではあるが害ではない、とする考えによるものだ。昭和35年には障がい者雇用を促進する法律が制定されたものの、それ以前の昭和15年から障がい者を積極的に雇用してきたのには、理由がある。当時、コクヨの主軸は伝票や便箋を生産する印刷業。現場では騒音が甚だしく、かえって聴覚障がい者のほうが作業に専念できたのだ。障がい者の社会参加を自らの事業で広げていきたい。戦前から一貫したこの考えが、コクヨでは今日まで受け継がれてきた。

 「障碍者が働くのは当たり前、という文化です。」とコクヨ・グループを語るのは、黒田英彦さん。コクヨ本社で文房具の開発から販売まで手がけてきた人物で、2011年からはコクヨの子会社であるハートランド株式会社の代表取締役社長を務める。ハートランドは、主にサラダほうれん草を水耕栽培し販売する会社として2006年に設立された。そう、扱う商品は文房具ではない。なぜ、2次産業の代表格であるコクヨが、野菜作りという1次産業へ果敢に参入したのだろう。

サラダほうれん草の栽培工場に、
知的障がい者の活路が

45B2.png障がいを持つ社員は8名で、知的障がいが7名、精神障がいが1名。ほとんどが創業以来のメンバーだ。残業時でも、社員は作業の必要性を理解しているため、誰もが最後まで丁寧に働くという。 障がい者雇用率は全従業員の1.8%と法律で定められているが、コクヨ・グループでは約2.3%。しかし、身体障がい者だけでなく知的障がい者の雇用を考えると、現況の工場内では彼らに活躍の場を用意することがかなわない。知的障がい者が主役となって働くことができる場を模索するなかでコクヨは、富山にある水耕栽培の会社を知った。訪問してみると、現場では知的障がい者が活き活きと働いている。知的障がい者の社会参加を考えるなら、最適な事業は水耕栽培。そう信じたコクヨは、特例子会社として株式会社ハートランドを設立し、その事業をサラダほうれん草の水耕栽培に定めた。

 ハートランドが所有する2,920㎡の広大なビニールハウス内には、腰の高さまである細長い水耕栽培用ベッドが延々と連なっている。肥沃な水と純水とがベッド内で循環し、年間を通して苗が整然と並ぶ様は、まさに工場といった風景だ。ビニールハウス栽培は、ある程度の成育管理を行うことができ、また地植えではないので、しゃがみこみ腰に負担をかける作業はない。その代わり、小さな穴へ同じ数の種を落とし込んでいく苗床作り、絡まる根を外しながら1束ずつレーンに差し込み続ける苗植え、収穫後の丁寧な分量計算とパッキング、といった各作業は途方も無い根気が必要だ。しかし知的障がい者のなかには、そういった緻密な作業に天性の才能を見せる者たちがいる。マスターするまでの時間に多少の個人差はあるが、一度覚えてしまえば途中で手を抜くこともなく、黙々と手を動かす。知的障がい者が活躍できる場として、水耕栽培はうってつけなのだ。


コクヨの手法で商品の認知率を高めつつ、
収支改善策を練る

45B3.png現在試作が進んでいる加工品は、ほうれん草が入った野菜スープ。「成人に最適な1日の塩分摂取量と野菜摂取量を考慮し、塩1グラム、野菜は120グラム程度で1人分としたい。」と黒田さん。 栽培面の利点だけでなく、サラダほうれん草という食材も成功のカギだという。「経営面を考えたとき、商材として優れています。土植えのほうれん草と比べ栄養価は同じですが、生で食べられる点で差別化ができますから。」と黒田さんは語る。それまで身を置いていたコクヨと、水耕栽培のハートランド、両者はメーカーとして物を作る理念が共通していると彼は考えている。だからコクヨで積み重ねた実績は、ハートランドでも応用可能。栽培品質基準のマニュアル制作はお手のものだし、マーケティング開発のノウハウを活かし、文房具と同様の親しみやすさを消費者に感じてもらえるPR案を練ることも。これは、コクヨ・グループならではの強みと言える。

 しかし、収支上では未だ課題が立ちはだかっている。農作物は工業製品と違い、生産を急にストップしたり量産したりすることは出来ない。青物が少ない冬場は需要に供給が追いつかず、成育サイクルの早い夏場はどうしても廃棄分が出る。ビニールハウス内とはいえ、屋外の日照量には大きく影響を受けるのだ。それを解決する1つが、長期保存用の冷蔵庫。パッキングを終えたサラダほうれん草は、電場を発生させることにより0℃でも凍らない特殊な冷蔵庫で新鮮なままキープし、日々の出荷を微調整していく。そしてもう1つの解決案が、今まで廃棄せざるを得なかったサラダほうれん草を有効活用する加工食品だ。


6次産業化で、グループ社員の健康改善とともに
収益向上を目指す

45B4.png「超えなければいけない壁は沢山ありますが、どんな仕事でも壁はあります。来年には『6次産業化、うまく行ったよ』と報告したいですね」と黒田さんは意気込みを語る。 ハートランドは現在、障がい者雇用を促進する食品プロデュースを行ってきた株式会社プラスリジョンと提携し、ほうれん草が入った野菜スープなどを手がける準備を進めている。2012年に六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画の認定を受け、ようやく12月から第一期開発期間に入った。2013年春以降にお目見え予定の野菜スープ、コンセプトはずばり“ヘルシー”とのこと。コクヨ・グループの産業医、看護士、健康保険組合などを巻き込み、生活習慣病予防や、健康で働ける人づくりのためのスープとしてグループ内で消費を促進していこうと黒田さんは画策中だ。

 コクヨとしてのブランド力を守るためには徹底的な品質管理が図られ、それがハートランドでのコスト高を生む面も確かにあるという。だが、まずはコクヨ・グループ内で連携し収益を安定させ、また社員食堂で提供することにより社員の健康改善にも貢献したい、と黒田さんは願う。コクヨ・グループ内での成功の次には、他農場との連携が待っている。現在、障がい者による水耕栽培農場のノウハウを他の協力農場へ提供しながら、関係性を深める努力も怠らない。一企業を超えた他農場との連携は、ハートランド・グループとしてまとまった販売網を敷くことでも強みが出る。6次産業化による収益アップへの石は現在、ほぼ布き終わった段階だ。

サポーター

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ここで働く仲間、外部でサポートしてくれる仲間がいて成り立っている

45S1.pngハートランド株式会社の玉井美保さん。
ハートランドの話を聞き、自らコクヨ本社からの出向を申し出た人物。経理を担当していることから、廃棄されるサラダほうれん草に心を痛め、2012年1月に農林水産省のホームページを調べて電話をかけた。「かけた先は、私が相談したかった案件とは関係のない部署だったのですが、『加工品を作るならば6次産業化が一番いいのでは』と担当部署を薦めていただきました」と玉井さんは当時を振り返った。


45S2.pngハートランド株式会社の飯田秀光さん。
会社創業時から在籍し、夜中でも気が抜けない水耕栽培に試行錯誤してきた。当初は半年ほど全く収穫できなかったとか。知的障がい者への対応にも苦慮することは少なくないが、「私が教えて、その子が分からないというなら、それは私の教え方が悪いということ。」と飯田さんは自分に言い聞かせる。今は抽象的な説明を極力避け、数字や分量を目視できる形にすることで分かりやすく伝える努力をしている。


45S3.pngハートランド株式会社の木原青さん。
スーパーや八百屋へ営業に出かけた際、自社が障がい者を雇用しているとの説明は一切しない。「お涙頂戴的なもので買っていただくものではありません。だから商品パッケージにもその旨は書いていません。」と木原さんは述べ、商品の品質そのもので勝負する姿勢を見せる。

達人からのメッセージ

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ハートランドでは、障碍者の社員それぞれに「彼でしかできない」「彼女だからこそできる」という作業があります。正確で完璧な作業を行う彼らがいないと、おいしい野菜は作れません。その代わり事業戦略などは私のほうが得意だから私がやる、ということです。仲間の必要性はコクヨ入社以来こんこんと教えられて身に染みておりますし、6次産業化がこの段階まで来れたのも、彼らの力が大きいと思います。

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ハートランド株式会社の製品

001 サラダほうれん草
関西一円の大手スーパーや八百屋に卸されている、ハートランドのサラダほうれん草。根元の土部分を除去するひと手間がかけられているので、消費者はキッチンを汚さずにすぐ調理できる。アクやクセが無く、みずみずしい食感は子供にも好評。ただし店頭での試食販売では、生で食べられるほうれん草があることを「知らない」と8割の人が答えるとか。知名度アップも課題だ。

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