井口木材

達人名:井口 和司 Kazushi Iguchi
    井口木材 代表
ジャンル:林業 Forestry
京都府京都市右京区 Kyoto-City Ukyou-ku Kyoto

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山を守るための6次産業化から生まれた
国内・京北産のスギを使った木の香のする「お棺」

1966年生まれ、京都府出身。高校卒業後に公務員となるが、23歳で親戚が経営する木材会社に転職。29歳で独立をして井口木材を設立。フィールドとしている京都市右京区の京北地域は、地域の93%を森林が占める全国でも屈指の林業地。そこで井口さんは、木材販売事業と山林作業請負事業(昔から言われる「木こり」の仕事)を基幹にしながら、廃棄木材の有効利用を促進するため、牛や豚の獣舎の床材として最適な“おが粉”を牧場と一緒に共同開発。また、牧場から牛肉や豚肉を仕入れカフェを開店したり、体験林業や育林などの普及や人材育成などを行う「井口木こり塾」(非営利のNPO組織)を開催。林業だけではなく様々な展開を行っているのも、木材需要の喚起、木の良さや木のぬくもりを消費者に伝えていきたいという考えと、山を守っていきたいという思いから。そんな中、井口さんが新たに思いついたのが「お棺」の製造・販売。2013年、六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画に申請し認定を受ける。2014年春から本格的に始動していく予定だ。
(2013年12月10日 取材・撮影/RPI)


森の手づくりキッチン ローズカフェ

インタビュー

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全国屈指の林業地で進む後継者不足問題
山を守るために何ができるか?を考え続ける

192_large.jpg優れた品質の木材を生産するためには、下刈り、枝打ち、間伐といった手入れが行われる。人が手をかけなければ山も荒れてしまう。井口木材の繁忙期は秋。木は夏に切って、秋に出す。 京都市右京区の京北地域は、スギ、ヒノキを中心とする木材を生産している全国でも屈指の林業地で、「北山杉」で知られる磨丸太の産地としても有名なところ。井口木材の代表・井口和司さん(47歳)は、この地で林業に携わり24年。林業の世界に入った理由について、「親戚の叔父さんが木材会社を経営していて、父もその現場で働き、僕も高校生の頃からアルバイトをしていました。卒業後は公務員になりましたが、山の後継者不足が問題になっていることが気にかかり、23歳で転職して林業の世界に入りました。」と井口さんは話す。

 京都市全体で見ると森林面積は6万1千ha。国有林を除く民有林は5万9千haで、そのうち人工林が2万4千haを占めている。人工林の種類はスギ、ヒノキ、マツが主で、植林後40~55年が経ち、手入れが必要なのにも関わらず、放置されている森林が7千900haもあるそうだ。「木材価格の暴落によって、後を継ぐ人たちが少なくなってしまいました。木が売れないことには山を守れない。人間が、生きるための源となっているのは水と空気です。その水と空気を生んでいるのが山です。山を守るために何ができるのか?と、ずっと自分なりに考え続けました。」と話す井口さん。

木こりの仕事以外に、廃棄木材の有効利用を促進するため“おが粉”を開発。
また「木こりメニュー」を提供するカフェも開店

126_large.jpg「自分たちで伐採・搬出した木で、家を建て住んで良かったと言ってもらえるのが一番嬉しい」と話す、従業員の中川さん。 現在の井口木材の基幹事業は、木材販売事業と山林作業請負事業(素材生産業)。昔から言われる「木こり」の仕事で、これが売上高の86%を占めている。山及び木の所有者を「山主」と呼び、山主は木を植林し、育て、成木になってから木材業者に販売する。伐採が決まれば、作業員が山の中に入り、木を伐採して搬出。原木を適度な長さに造材(切断)して木材市場に運ぶ。京北地域では、地元の木を地元で販売すべく、木材市が月に3回開催され、製材所に原木を販売。町にはいつも木の香りが漂っている。

 また、井口木材では、廃棄木材の有効利用を促進するため、滋賀県朽木にある宝牧場と、牛や豚の獣舎の床材として最適な粒子形状の“おが粉”を共同開発。おが粉は(株)北桑木材センターが生産、井口木材では出来あがったおが粉を運送している。家畜とおが粉の関係について、「おが粉によって、牛がレベルアップしているんです。宝牧場の搾乳の量は滋賀県内でトップクラスで、お肉の味も全然違います。」と井口さんが話す。2009年には飲食店の「ローズカフェ」を開店。おが粉を販売している牧場より、美味しい牛肉や豚肉を仕入れ、「木こり牛丼」「木こりとんかつ」「木こりなべ」といった「木こりメニュー」を提供。また、木や山、木こりの情報を発信する基地としての役割も果たしている。


常に考えているから、アイディアはひらめく
専門家、従業員を巻き込んで6次産業化の元となるレポートを作成

23_large.jpgフォレストファーマーズレストラン「ローズカフェ」で料理の腕をふるっているのは井口さんの奥さん・真美さん(左)。食器のほとんどは国内産の木材を使ったもので、木のぬくもりが感じられる。 おが粉の運送事業や飲食事業の展開は、木材需要の喚起、木の良さや木のぬくもりを消費者に伝えていきたいという考えと、山を守っていきたいという思いから。一方で、木材需要の低迷により落ち込んでいく売上をカバーするための関連事業としても意味を為している。「山を守るために他に何かできないか?」常に考え続ける井口さん。6次産業化プランナーや商工会担当者からのサポートを受けながら、井口さんは5人の従業員と共にアイディアを出し合い「知恵の経営報告書2012」を作成。レポートには林業の現況把握から、昔ながらの木こりの知恵の再確認、連携や可能性の追究、そして今後の展開まで綴られたもので、京都府から「知恵の経営」実践モデル企業として認証を受けた。「7ヶ月間かけてみんなで作ったレポートです。これが6次産業化認定申請への足がかりとなりました」と井口さんは話す。

 すでにこの頃から、井口さんのアタマの中にあったのは、京北産のスギを使ったお棺の製造・販売。「知恵の経営報告書」では、新商品の開発という言い方にとどめておいたが、その後次第に構想が明確になり、この事業を六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画に申請、2013年に認定を受けた。


『日本人なら日本の木で作られたお棺であの世へ旅立って欲しい』
常識を超えた6次産業化の新しいお棺

115_large.jpg商品見本のお棺。龍の絵は展示用のアクセサリーのつもりだったが、これが目を引くばかりか大好評。デザインお棺の可能性を示した。 お棺の製造・販売を思い至った経緯について、井口さんはこう語る。「人生を全うしたら、お棺は必ずお世話になるものです。ですが、国内の木材需要がここまで低迷しているにも関わらず、今のお棺は、95%が中国をはじめ海外から輸入されています。日本人なら日本の山で育った木で作られたお棺で旅立ちたいと思うでしょうし、京都の人の中には、京都産の北山杉のお棺で旅立ちたい、というこだわりもあるかもしれません。」

 販路は、京都、大阪、滋賀の一般葬儀社や、最近注目されている家族葬や個人葬を扱うような小さな業者。ただ、井口さんの6次産業化の基本は山を守るためのもの。資材を有効利用するために節が入った木材も使用するが、白い無地の棺を基本とする葬儀業界の中では戸惑う業者も。だが、井口さんはひるまない。「2013年に京都と大阪で展示会を行いましたが、一般の方にはとても好評でした。中国産の木を使ったリーズナブルなお棺が市場を占める中、『日本人なら日本の木で作られたお棺であの世へ旅立って欲しい』というコンセプトに驚く方も多かったです。」さらに続けて、「京北産のスギを使ったお棺の中には、木の香りが漂う“おが粉”の布団(特許出願中)も敷いています。入棺体験された方からは『ふかふかで、ええニオイがするわぁ』と言われ、購入を検討いただいている方もいます。」とのこと。

 現在は、井口木材の素材を関連業者に持ち込み、お棺に加工。バージョンアップをはかりながら、ゆくゆくは井口木材で加工をしていきたいと井口さんは話す。「そうすることによって雇用も生まれますし、荒天で山で作業ができない場合でも確実な作業の日程が組めます。」と井口さん。2014年は年間で250本の製造を目指し、軌道にのってきたら月に100本を製造。井口木材の6次産業化は、2014年春から本格的に始動していく予定だ。

サポーター

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〜ここで働く仲間、外部でサポートしてくれる仲間がいて成り立っている〜

井口木材をサポート

京北商工会
経営支援員 藤原昌美さん

「お棺」と聞いたとき「いい!」と思いました

42_large.jpg京北商工会・経営支援員の藤原昌美さん(左)と井口木材の井口和司さん。井口さんが経営する「ローズカフェ」にて。 井口木材の経営支援を担当しているのが、地元・京北商工会の藤原昌美さん。「山を守るために他に何かできないか?」常に考え続ける井口さんにとって強力なサポーターで、2012年に従業員5人と作成した「知恵の経営報告書2012」でも、様々なアドバイスをいただいたそうだ。井口さんから、お棺の製造・販売について相談を持ちかけられ、「いい!と思いました。絶対に必要なものですし、誰しもいつかは入るものですから」と即答する藤原さん。続けて、「井口さんも調べられてわかったそうですが、お棺は、あの世へ行く途中、三途の川を渡る舟となり、あの世では家となることをうかがいました。だからこそ、日本人なら日本の山で育った木のお棺をという思いは、消費者の方たちにも、ダイレクトに伝わるものだと思いました。」と話す。

林業は業界が特殊。普通の販売方法では無理

147_large.jpg井口木材の従業員は5人。6次産業化の構想は全員が共有している。 全国でも屈指の林業地である京北地域は、井口木材も含む約30の素材生産業者を中心に、スギ、ヒノキ、マツなど、合わせて年間約25,000㎥の素材生産量を誇る。加工業者は40件程あり、仕上げられた製品は、京北町銘木生産協同組合の市場などで競り市にかけられる。いわゆる林業・木材の町で、地元商工会で経営支援員として活動する藤原さん。昨今の木材需要の低迷により、事業者から寄せられる相談も多く、日々に解決策を一緒に模索しているそうだ。「生産から商品として出荷するまで、日数や加工・製造規模など、林業は特殊ですから、普通の販売方法が通じません。そんな中、井口さんからうかがったアイディアや実行に移される行動力は、柔軟で素晴らしいと思いました。おが粉を牛や豚の獣舎の床材として有効利用したり、そして今回のお棺の製造・販売も、いつも驚かされています。」と藤原さんは話す。

夢をカタチにしていきたい、支援していきたい

15_large.jpg京北の山から切り出された木材は、主に地元原木市場に出荷。京都府下唯一の国産材専門市場である(株)北桑木材センターでは、競り市が月に3回開催され全国へ出荷される。 六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画の認定を受けることについて藤原さんは、「認定を受けることによって広がりは大きくなりますし、使い方はいろいろあると思います。創業される方は6次産業化を目指して、アイディアや夢を膨らませることができます。夢をカタチにしてもらいたいですし、私たちも支援していきたいと思っています。京北には材料がたくさんあります。」と藤原さんは話す。続けて、「一方で生産者はリスクを負いやすい面があります。井口さんの場合は基幹事業をしっかりされてからの6次産業化なので、もし撤退されたとしてもそんなにリスクはありません。ベースがしっかりしていることも大事だと思います。」と話す。井口木材の六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画の認定についても、書類作りをサポート。体験林業や育林などの普及や人材育成などを行う「井口木こり塾」のプログラムや、井口さんが語る今後の夢についても、藤原さんは、笑顔でうなづきながらアドバイスやエールを送っている。


達人からのメッセージ

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6次産業化の柱である「山への感謝事業」は、京都の山で育った木材を使った「お棺」を製造販売する事業です。日頃から山を守り山への感謝を忘れない。少しでも山に返したい。そんな思いから、自分たちが天に召されて山に帰るときは、地元・京都の山で育った木材、良い香りのするスギ・ヒノキを使った“お棺”で眠りにつき山に帰りたい。京都の人たちにも、そんな思いを伝えていきたいです。

井口木材の商品

001 杣人棺(そまびとひつぎ)
“杣人”とは、山に入って山と木を守る人のことで、“木こり”の昔からの呼び方。「杣人棺」(商標登録済)は、「山を守るのは杣人としての使命」と語る井口和司さんが考案したお棺で、6次産業化の柱である「山への感謝事業」として進めている。地元・京北産の節入りの杉(写真上)と無地の檜(写真下)を使った2種類のお棺があり、扉部分のフサは、伝統工芸の京組紐で手作りで仕上げられている。

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002 おが粉の布団
杣人棺の敷物の布団の中には、生産途中で出た“おが粉”を使用。お棺の中は自然の木の香りに包まれている。現在、特許出願中。

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