オーベルジュ・エスポワール

達人名:藤木 徳彦さん Norihiko Fujiki
    オーベルジュ・エスポワール オーナーシェフ
ジャンル:飲食業 Eating and Drinking Services
長野県茅野市 Chino-City Nagano

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ジビエに関する明確なルールを作ることから始まった
「信州ジビエ」ブランド化と販売戦略

「ジビエ」とは、フランス語で狩猟で得た野生鳥獣の食肉を意味する言葉だ。日本で有名なジビエといえば、捕獲数の多いシカ、イノシシが挙げられるが、実は、狩猟の対象となっている野生鳥獣は全てジビエとして定義されている。日本ではまだ馴染みの薄いジビエだが、藤木徳彦さんは、フランス料理の料理人として修業時代から現在に至るまで、ジビエに向き合ってきた。特に、オーベルジュ・エスポワールのオーナーシェフになってからは、これまで別々に取り組まれていた鳥獣被害対策、害獣駆除、ジビエ振興をひとつにまとめ、ジビエを活用した産業を拡大していこうと活動してきた。今やジビエの伝道師と呼ばれる藤木さんに、その志を聞いた。
(2015年11月18日 取材・撮影/RPI)

オーベルジュ・エスポワール
http://www.auberge-espoir.com/

インタビュー

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ジビエは、商売を助けてもらった恩人のようなもの

01_IMGP9490.JPG自然豊かな信州・蓼科高原の中にあるレストランと宿泊施設を備えたオーベルジュ。藤木さんのジビエ料理を目当てに、常連客や他県からの視察客が多く訪れる。 1998年、藤木徳彦さんは、自身がオーナーシェフを務める「オーベルジュ・エスポワール」を長野県の避暑地・蓼科に開いたが、冬になると厳しい寒さの影響を受けて客足が激減。商売が成り立たないと頭を悩ませていたが、地元の猟師からシカ肉を分けてもらい、新たなメニューの提供を開始した。それから徐々に、美味しいジビエ料理が食べられるオーベルジュとしてSNSなどクチコミで知られるようになり、冬場の集客に成功。藤木さんは、「ジビエは、商売を助けてもらった恩人といっていいような食材です」と話す。





ジビエのブランド化を目指したガイドラインの作成

02ブロック_変更.jpgジビエの振興のため、全国各地を飛び回る藤木さん。2012年、ジビエに関係する課題を全国で共有しようという目的で、「NPO法人 日本ジビエ振興協議会」を発足させ、理事長に就任。 2004年、藤木さんは長野県からジビエを使ったおもてなし講習会の講師を依頼され、試食用にジビエ料理を準備していたところ、提供しないよう保健所から通達を受けた。ジビエの明確な流通のルールがないというのが理由で、これに納得できなかった藤木さんは当時の長野県知事・田中康夫氏にメールを送った。輸入のジビエが検疫を通って、国内のジビエはなぜダメなのか? ジビエの流通にルールが必要なこと、今後、信州ジビエというブランドで新たなマーケットの開拓が期待されることなどを伝えたところ、田中知事も藤木さんの意見に賛同。イベントは予定通りに開催され、このことをきっかけに、2007年に信州ジビエ衛生管理ガイドラインが作成された。

 「長野県の場合は、ジビエを地域のブランドにしていこう、美味しいジビエを食べてもらおうという観点からガイドラインを作成していますから、害獣駆除に終わらず、調理法まで記載されています。これがよかったですね」と藤木さん。長野県をモデルに他県もジビエのガイドライン作成に乗り出し、藤木さんはアドバイザーとして奔走した。ジビエを産業にして、鳥獣被害に悩まされていた農家に還元していきたいと願っていた藤木さんにとっては、大きな一歩となった(※)。

※2014年11月14日には、国においても「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」が策定された。

価格交渉、調理方法の考案、そして販路開拓へ

02_鹿猟.JPGジビエとして出荷するシカは、銃で仕留めず、罠にかけ処理施設に持ちこまれる。 ガイドラインは整ったものの、価格が高いことがジビエの普及を阻んだ。成体70㎏のシカの場合、内臓を出す、皮を剥ぐ、脱骨するなどの処理をすると重量が約半分になり、飲食店が使いたい部位のロースやモモは、わずか10㎏から15㎏しかとれない。当時の輸入シカ肉の価格が1㎏当たり約3500円だったのに対し、約4500円と高い。そこで藤木さんは、前足やすね肉、首の肉など、硬くてミンチにしないと使いづらい「くず肉」と呼ばれる部分を安く買い取ることができないか精肉加工施設を運営する事業者と交渉し、契約を成立させた。

 「くず肉は、名前は悪いですが美味しいんですよ。ただ硬い。そこで、ジビエの本場フランスで生まれた技術を活用し、真空状態にして低温で調理することにしました」と藤木さん。価格を抑え、調理法の目処もつけたところで、藤木さんは販売先を探し始め、過去にジビエを活用した駅弁等の共同開発でつながりがあった東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)に話を持ちかけた。

首都圏でジビエを使ったカレー、ハンバーガーを提供

04_GIBIER_2.jpg「信州ジビエ THE★鹿肉バーガー」。2013年から毎年秋の期間限定で、都内のベッカーズで販売している商品。720円(税込)という価格にも関わらず人気商品となっている。 JR東日本から、首都圏で「エキナカフード」を展開しているジェイアール東日本フードビジネス株式会社(JEFB)を紹介してもらい、藤木さんはプレゼンテーションを行った。鳥獣被害と駆除された動物の命が活かされていない状況、そしてジビエの普及について訴求したところ、契約が成立。大消費地への販路開拓が叶った。

 初年度の2011年は、JEFBが運営するレストランやカフェなど3 店舗で、シカ肉を使ったカレー、ミートソース、ハヤシライスを期間限定で販売。消費者の反応がよく、翌年の取組は6店舗に拡大された。そして3年目の2013年には、シカ肉の味をより堪能できるハンバーガーを開発。店舗での調理環境を踏まえ、どのような調理状態でシカ肉を納品したらよいか検討を重ねた。そうして、JEFBが運営するハンバーガーショップ「ベッカーズ」の都内20店舗で販売されたハンバーガーは、期間終了を待たず一万食を完売。追加で3680食を用意したが、すべて売り切れた。関係者や消費者から寄せられた「美味しい」という評価に、藤木さんは確かな手応えを感じた。さらに、シカ肉ジビエドッグなど新たなメニューも加え、JEFBでの展開は2015年で5年目を迎えた。

サポーター

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〜ここで働く仲間、外部でサポートしてくれる仲間がいて成り立っている〜

オーベルジュ・エスポワールをサポート

ジェイアール東日本フードビジネス株式会社 取締役
佐野 正人さん

地域と共に生きる会社の方針とも一致
藤木シェフ提案のジビエレシピを首都圏で提供

サポーター_01_DSC01463.JPGサポーター_01_DSC01463.JPG オーベルジュ・エスポワールの藤木さんが、ジェイアール東日本フードビジネス株式会社(JEFB)にジビエを使って欲しいと試食品を持ってプレゼンテーションに訪れたのが2011年。鳥獣被害に悩む農家、動物の命を自然の恵みとして活かすことができていない現状に、担当の佐野さんは心を動かされたという。藤木さんの提案は、地域と共に生きる「地域再発見プロジェクト」を推進する会社の方針とも一致し、JEFBが運営するカフェやハンバーガー店でジビエ料理を展開していくことになったが、内心佐野さんは、「果たしてお客様は受け入れてくれるだろうか」と心配していたという。
 「心配をよそに売れましたね。5年にわたって取り組んできましたが、ブームで終わらせるのではなく継続させていくことが大事だと思います。また、今は期間限定で販売していますが、今後は、通年展開も可能になると良いですね」と佐野さんは期待を寄せる。

信州富士見高原ファーム
戸井口 裕貴 さん

駆除後に埋め立て処分していたシカやイノシシを
ジビエにして町の特産物に

サポーター_02_1_DSC_0661.JPG 藤木さんが「肉質がいい」と推薦する県内の処理施設、信州富士見高原ファームでは、仕留めたシカを1時間以内に処理施設に持ち込み、素早く解体を始める。時間が経ってしまってからでは肉が硬くなり、生臭さも残ってしまうからだ。また、処理施設では一度に何頭も解体できないので、猟師たちは時間が重ならないよう連絡を取り合っている。
 「全国におけるシカ肉の利用率は5%しかありませんが、信州富士見高原ファームがある富士見町では、ほぼ100%です。富士見町は地域が一丸となって美味しいジビエの加工・販売に取り組み、その成果が出ている地域だと思います」と藤木さん。

 信州富士見高原ファームは、六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画の認定を受け、交付金を活用しつつ、富士見町と地元猟友会メンバーなど有志の出資により、2014年に精肉加工施設を建設した。多い日は1日に5頭、精肉約35㎏を加工している。肉質にこだわった精肉処理は高く評価され、JA全農や県内の大手ショッピングセンター11店舗に供給しているほか、県外の飲食店からの問い合わせも多いという。代表の戸井口さんは、「農業被害を減らし、捕殺後の肉を無駄にしないようにするのが目標。品質にこだわり、今後も販路を広げていきたい」と話す。また、長野県の鳥獣対策・ジビエ振興室と連携してトレーサビリティの体制を整え、出荷精肉には商品情報を追跡できるQRコードを付けている。

達人からのメッセージ

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シカ肉の利用率は、全国で見るとまだ5%しかなく、駆除されたほとんどのシカは土の中にそのまま埋められてしまいます。とった命は無駄なくいただき、人の命の糧としようというのは世界共通のものだと思いますが、多くの方々の協力や連携が必要です。また、ジビエを広めていくためには、ジビエ料理が美味しいことをわかってもらうことが第一です。そのためには、肉質の良さと調理の工夫が大切です。

オーベルジュ・エスポワール

長野県における狩猟期間は、11/15から翌年2/15まで。(ニホンジカとイノシシのわな猟は3/15まで。)この間、シカ、イノシシ、野ウサギをはじめ、山鳩、真鴨、カルガモ、キジ、コジュケイなど、多くの信州産ジビエが入荷して、ジビエ料理が提供されている。
001 鹿ロティとツキノワグマのパイ包み

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002 マルカッサン(仔イノシシ)骨付きロースのロティ パースニップを包み込んだパイアッソン添え

02_マルカッサン(仔イノシシ)骨付きロースのロティ パースニップを包み込んだパイアッソン添え.JPG

003 自家製信州産仔イノシシの骨付き生ハム

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004 鹿肉のテリーヌ・メリメロサラダ添え

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