愛南漁協

達人名:藤田知右(愛南漁協 事業部長)
ジャンル:漁業 Fishery
地域:愛媛県南宇和郡愛南町 Ainan-cho Minamiuwajima-gun Ehime

 

鮮度のブランド「びやびやかつお」
その仕組みとブランドを牽引する旗手

愛媛県愛南町に生まれ、その後他県へ出て就職するが、再び故郷に戻り愛南漁協へ。魚の水揚げ高が減少する地域の漁業に危機感を抱き、水産加工品の付加価値向上へ乗り出す。3年前から始まった「愛南びやびやかつお」のブランド化事業や、水産加工品の開発・販売事業の強化を担当し、地域の行政、飲食店、漁師をまとめながら、ブランド保持とPR活動に努める。

■愛南漁協

インタビュー

7.psd

愛南漁協で行われている6次産業化の取り組みについて教えてください。

松山市から南へ車で約2時間半。愛媛県の最南端に位置し、高知県と隣接する愛南町にある愛南漁協は、足摺宇和島海国立公園の複雑な海岸線がつくり上げた入り江の1つ深浦漁港にあります。この近海では、日本全国で3600種獲れるといわれる魚の内、4分の1を占める849種の魚が確認されるほど豊富な資源に恵まれています。また、高知県はかつおの一人あたりの消費量全国一を誇っていますが、かつおの水揚げにおいて、漁港別による四国一は、実はこの深浦漁港です。このことは残念ながら、関係者以外にはあまり知られていません。しかも、深浦漁港は漁場にとても近いことから、釣ったその日のうちに水揚げされる日帰りかつおもあり、地元の漁師たちの浜言葉で新鮮という意味の「びやびや」を使って、鮮度の高さなど一定の条件を満たしたものを「愛南びやびやかつお」として打ち出し、まさにここでしか食べることのできない味としてブランディングしています。今回の6次産業化の取り組みとしては、当組合がこれまで進めてきた「愛南びやびやかつお」のブランド化事業において培った水産物ブランド化のノウハウを最大限に活用し、かつおだけでなくイサキやビンタ(キハダマグロ)など他の魚種も含めてトータルに「愛南びやびやシリーズ」としてブランド化することです。また、地元以外の人々にも食べていただけるよう、飲食店でメニューとして提供し、更に冷凍加工品開発・販売事業も手掛けていくというものです。私たちは6次産業化することで、漁業者、当組合、飲食店等の収益性を改善し、地域経済の活性化を図ることを目標としています。こうした取り組みの中で、地域水産物の消費拡大を通じての食料自給率の向上、地域の小学校とコラボレーションした魚による食育、トレーサビリティの確保に基づく食の安全・安心の確立やこれからの農山漁村の在り方などについて、考えを打ち出していきたいと考えています。

これまで愛南漁協が抱えてきた問題点や地域経済の状況について教えてください。

愛南町は、愛媛県の最南端に位置する農山漁村で、町の人口は約25,000人です。第1次産業への就業比率が高く、農林漁業が町の基幹産業となっています。また、愛南町は、漁業者数が農業者数を上回っており、愛媛県の漁業をリードする立場でもあると自負しています。しかし、2008年に起こったリーマンショック以降、世界的な経済不況の煽りを受け、私たちの漁業を取り巻く環境も漁獲量の減少、魚価安、餌料の高騰等、厳しい経済状況が続いています。そのような中、市場での水揚げ高が減少する一方、貝類や水産加工品などの買取販売の取扱高は着実に伸びています。これは漁獲量の減少に危機感を抱いて、平成21年に新設した販売促進課が中心となって、水産加工業者との連携により付加価値を高めた商品開発や販売事業に力を入れてきた成果です。そして、商品開発の軸となったのが、当組合が水揚げ量四国一を誇るかつおです。さらに、限られた漁獲資源を最大限に活用し、付加価値を高めるために考え付いたのが、鮮度の高いかつおのブランド化です。魚の美味しさの基準はいろいろありますが、他の産地と勝負できるとすれば、漁場が近くにあり、釣ったその日のうちに水揚げされるかつおの鮮度だと思いついたのです。

「びやびやかつお」のブランドの基準、鮮度を保つためのノウハウについて教えてください。

びやびやかつおは、釣り上げたばかりのかつおを、漁師が船上ですぐに活け締め・血抜き処理をしてその日のうちに水揚げし、漁協の管理の下、スラリー氷で保管し梱包します。そして、翌日までに消費者に提供できるものだけを「愛南びやびやかつお」の条件としています。また、愛南びやびやかつおは、一尾ずつにシリアルナンバーのタグを打ち、いつ釣り上げられ、どこに出荷されたのかをWebサイトで公開してトレースできるようにし、びやびやかつおのブランド基準を守っています。現在、町内の飲食店6店舗(この6店舗で「愛南びやびや広め隊」というグループを結成)で提供しており、この「愛南びやびやかつお」ブランドの付加価値により漁業者と飲食店双方の収益の向上と、観光客の増加が見込まれると考えています。「愛南びやびやかつお」のブランド化への取り組みをスタートして3年になりますが、普通のかつおに比べ浜単価は約1.5倍以上になっており、私たちの取り組みが成功していることを実感させてくれます。

「びやびやかつお」ブランド化の取り組みで苦労された点はどんなところですか?

私たちのように首都圏から遠く離れた漁村では、魚を大都市へ出荷することよりも、他県や遠方からの観光客が、この地に足を運んでいただけるような心惹かれる魅力づくりが大切なのではと考えています。そこで、遠方からでも足を運ぶ価値のある、新鮮でここでしか食べることのできない美味しさを提供する仕組みを考えなければなりません。例えば、かつおを釣り上げてそのまま船上で放置すれば、すぐに鮮度は落ちてしまいます。それを漁師が船上で素早く処理することで、鮮度と品質を保てるようになります。これまで漁師の間には、魚を釣って港で売るだけで、鮮度保持が魚の価格を上げることにつながるのだという発想はあまりありませんでした。そのため、私たちの「鮮度をブランド化する」という取り組み当初は、想いをなかなか理解していただけず苦労しました。しかし、魚を釣り上げて、ただ出荷するだけでは他の漁港との差別化にはなりません。そこで、漁師の人達に、ひと手間かけて品質を守ることが、釣り上げた魚の資源を大事にすることであると、そして、低下する魚の価格に歯止めをかけることにつながるのだと、働きかけると共に、組合や飲食店にもこの取り組みを共有させて、漁業に関わるすべての人たちの意識を変えていこうとしています。こうした地域の人々の意識がこの土地の漁業文化として浸透し、いずれはこの漁業が、町の観光資源となればと考えています。

今後の漁協、地域経済の展望についての考えをお聞かせください。

この取り組みを始めてまだ3年ですが、これからかつお以外の魚についても、鮮度を保つノウハウを活かした「びやびやシリーズ」として展開し、この土地ならではの漁業で地域を活性化させていきたいと考えています。関係者の収益性向上以外にも、愛南町が積極的に推進している水産版食育活動“ぎょしょく教育”と連携・協力することで、水産加工品の学校給食への納入実績も着実に増えてきています。加えて、平成21年度からの3年計画でぎょしょく教育を推進している東京都庁との交流も生まれ、お互いの地域を行き来する「ぎょしょく出前授業」を開催するなど、交流をきっかけとした販売展開にも取り組んでいます。また、松山三越での定期的な催事開催や県内外の特産品販売イベントなどへも積極的に出店活動を行っており、直販事業も強化していく予定です。こうした活動が愛南町のPR活動にも繋がっていくと考えています。これからは本当に新鮮なかつおの味を求めて、全国の皆さんにぜひ足を運んでいただけるよう、愛南町の漁業文化から、日本のぎょしょく教育に至るまで、地域としての様々な取り組みを展開していきたいと考えています。


サポーター

7.psd

愛南びやびやかつおのブランドを守り
その価値を広めるサポーター

愛南びやびや広め隊 地場産品応援の店 

店舗名:ゆらり内海
ゆらり内海では愛南びやびやかつおをはじめ、地元の食材を使った料理をメインにご提供。物販コーナーでは、地元の特産品やその加工品を販売している。




 

日本一の鮮度を誇るびやびやかつおを釣り上げる!

名前:一本釣りの漁師たち
早朝に漁港を出港し、釣ったその日のうちに水揚げされる「びやびや」の日帰りかつおを一本釣りする漁師たち。船上での鮮度保持のための処理を実行し、消費者の口に入るまでの鮮度を守っている。

達人からのメッセージ

7.psd
◆達人の第6感
他の漁港と差別化するためには、漁港と漁場が近いこの港ならではの日帰りかつおで勝負。このもちもちとした鮮度の高いかつおの美味しさは遠方から足を運ぶ価値あるもの。

◆達人の教訓
漁師、組合、飲食店、そして地域行政。全ての人に愛南の海で獲れる魚の鮮度がブランドになるという意識をもってもらうことが大事。ブランドを守るためには、関わる人々の意識をまとめる努力が必要。

愛南漁協の製品

001 愛南びやびやかつお
ブランド化している自慢の「愛南びやびやかつお」。「びやびや」とは、地元の漁師たちの浜言葉で新鮮という意味。まさに地元でしか食べることができない。ぜひ足を運んで食べてもらいたい逸品!

 

002 かつおの刺身
一般的にかつおはタタキで食べるものと思っている人が多い中、もちもちした食感を味わえるかつおの刺身は愛南びやびやかつおならではの美味しさを一番よく味わえる食べ方。